大阪地方裁判所 昭和50年(行ウ)6号 判決 1978年6月30日
尼崎市武庫之荘三丁目四番一四号
原告
三国産業株式会社
右代表者代表取締役
佐竹健三
右訴訟代理人弁護士
坂本壽郎
池田市城南二丁目一の八
被告
豊能税務署長
斎藤元公
右指定代理人
上原健嗣
同
西田春夫
同
高橋正行
同
米川盛夫
同
筒井英夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
1. 被告が三国鋼業株式会社の昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度の法人税につき昭和四九年二月二八日右会社に対してした更正および過少申告加算税賦課決定を取消す。
2. 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文と同旨
第二、当事者の主張
一、原告
1. 三国鋼業株式会社(以下三国鋼業という)は豊中市三和町一丁目一番二号に本店を有する株式会社であつたが、昭和五二年八月原告に吸収合併された。
三国鋼業は被告に対し、昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の法人税につき、所得金額および税額をいずれも零として確定申告をしたところ、被告は昭和四九年二月二八日所得金額を二九、〇八二、六七〇円、税額を一一、九九一、六〇〇円とする更正(以下本件更正という)および過少申告加算税五九九、五〇〇円を課する決定をした。
2. 被告が本件更正において三国鋼業の所得金額を前記のように算定したのは、その確定申告にかかる所得金額に次の(ア)(イ)を加算し、(ウ)を減算したことによるのである。
(ア) 繰延資産の償却超過額 九〇〇、〇〇〇円
(イ) 圧縮引当金繰入額の過大計上額 三四、一六七、一一一円
(ウ) 繰越欠損金の当期控除額 五、九八四、四四一円
3. 本件更正は(イ)を加算した点において違法である。その理由は次のとおりである。
(一) 三国鋼業は豊中市三和町に所有していた土地、建物、構築物を昭和四四年六月三栄化学工業株式会社に代金八六、八三七、五〇〇円で売り、同年一二月西脇市上比延町に土地を代金二三、八五三、〇七二円で買い、右土地の取得価額につき、昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの事業年度の所得金額の計算上、昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法(以下法という)第六五条の四に基づいて圧縮引当金勘定繰入による損金算入をした。
(二) 三国鋼業は右土地上に別紙記載の「取得価額」で取得しようとしていた「買換資金」を昭和四六年三月三一日までに取得することが困難であるとして、被告に対し、法第六五条の五第一項、昭和四四年政令八六号による改正前の租税特別措置法施行令(以下令という)第三九条の六第七項による期間延長承認申請書を提出し、被告から昭和四六年三月八日指定期間を昭和四八年三月三一日までと認定され、右(一)の事業年度の決算において別紙記載の「法第六五条の五による特別勘定として計上した金額」を特別勘定として経理し、これをその所得金額の計算上損金の額に算入した。
(三) 三国鋼業は右買換土地上に、別紙記載の「取得年月日」に「取得価額」で「買換資産」を取得し、「法第六五条の五による特別勘定として計上した金額」を本件事業年度の所得金額の計算上益金の額に戻入し、改めてこれを損金額に算入した。
ところが、被告は「買換資産」のうち事務所用建物につき二、六四七、四二五円を損金額に算入することを認めたが、その余の三四、一六七、一一一円(前記(イ)の金額)については、指定期間内に「買換資産」の取得がなかつたとして、損金額への算入を認めず、本件更正をした。
(四) しかし、左に記すとおり、「買換資産」はすべて指定期間内に三国鋼業が取得したものとして取扱われるべきである。
(1) 三国鋼業は昭和四七年一二月一〇日三国鋼業を合併する前の原告(以下三国産業という)との間で、「買換資産」の建物および電気設備を代金三八、五七〇、〇〇〇円、完成および引渡昭和四八年三月三一日、引渡と同時に代金全額払の約で築造すべき旨の請負契約を締結した。
右契約に基づき、三国産業は「取得年月日」に「買換資産」を完成して原告に引渡し、原告は昭和四八年一二月これを使用して操業を開始した。
(2) 「買換資産」のうち事務所用建物を除く建物および設備が指定期間内に完成しなかつたのは、次のような事情によるものである。
すなわち、三国産業は道工業株式会社を下請として、昭和四八年一月初め工場用建物の基礎工事のための土堀りをし、同年二月右建物の建築に必要な鉄骨の加工を終え、その頃事務所用建物の建築を株式会社豊工務店に、社宅用建物の建築を大阪ミサワホーム株式会社に下請させ、昭和四七年一二月中頃電気設備の設置を芝本産業株式会社に下請させた。ところが、昭和四八年一月頃からセメントの需要が急激に増加し、これに買い占め、売り惜しみも加わつて、セメントが忽然として市中から姿を消した。このような事情で、三国産業およびその下請業者はいずれもセメントを入手できず、そのため工場用建物および社宅用建物の基礎工事ができなくなり、右工場用建物に附属する電気設備もまた設置できなくなつた。セメントの逼迫状態は同年五月漸く緩和し、三国産業はその頃日米工材株式会社と生コン売買契約を結び、その生コンにより、同年六月四日工場用建物および社宅用建物の基礎コンクリート打が実施されたのである。
(3) したがつて、事務所用建物は三国鋼業が指定期間内に取得したものであり、また工場用建物、社宅用建物および電気設備は三国鋼業が指定期間内に取得しなかつたけれども、それはセメントが市場から消えるという不測の異常事態によりその築造が遅れたもので、やむを得ない事情によるものであり、その事情解消後相当期間内に三国鋼業がこれを取得したから、指定期間内に取得したものとして取扱われるべきである。
(五) 仮に右主張に理由がないとしても、(イ)を三国鋼業の所得金額に加算したのは違法である。
すなわち、三国鋼業は昭和四八年四月末日三国産業との間に、「買換資産」の請負代金の一部二八、一九二、二八一円の支払につき三国鋼業が三国産業に対して有する債権をもつて相殺する旨合意し、請負残金一〇、三七七、七一九円は同年一一月三〇日までに右と同じように相殺して決済した。したがつて、三国鋼業は「買換資産」につき、指定期間経過後一年以内に、請負代金を完済し、かつ、これを事業の用に供したことになる。
ところで、法第六五条の五が買換資産の取得期間を設けたのは、買換資産が譲渡資産の対価で取得されたという性質を保有させることにあるから、その期間内に取得の代金を支払うことに実質的な意味があるのであり、また、右規定の趣旨は産業配置の効率化および土地の合理的活用をはかるために既成市街地等人口過密地域から過疎地域等へ工場を移転するのを促進するにあるから、右規定は買換資産を所定の期間内に事業の用に供することに主たる意味を有し、取得期間を守ることは副次的意味を有するにすぎない。
かかる事情と前記のような「買換資産」の取得遅延の事由を考えると、三国鋼業につき法第六五条の五第二項の適用を認めず、(イ)を所得金額に加算するのは正義公平に反し、課税権の濫用である。
4. したがつて、被告がした本件更正およびこれに附帯する過少申告加算税賦課決定はいずれも違法であるから、その取消を求める。
二、被告
1. 原告の主張1、2、3(一)、(二)の各事実、3(三)および(四)(1)のうち「買換資産」の取得の日を除くその余の事実は、いずれも認める。
同3(四)(2)の事実は知らない。
同3(四)(3)および(五)は争う。
2. 三国鋼業が「買換資産」を取得した日は、工場用建物および事務所用建物が昭和四八年八月三一日、社宅用建物が同年一一月三〇日、電気設備が同年一〇月三〇日であつて、いずれも指定期間経過後であり、したがつて右建物、設備につき法第六五条の五第二項の適用はない。なお、被告が本件更正において事務所用建物の一部について損金計上を認めたのは、右建物が一棟であるのに、これが二棟であつてそのうち一棟を昭和四八年三月三一日三国鋼業が取得したと誤認したことによるものである。したがつて(イ)は三国鋼業の所得金額に加算すべきものである。
第二、証拠
一、原告
1. 甲第一、第二号証、第三号証の一ないし六、第四号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八、第九号証の各一、二、第一〇号証
2. 証人長岡三朗、道下哲朗の各証言
3. 乙第一五証の一、二の成立は不知、その余の各乙号証の成立は認める。
二、被告
1. 乙第一号証の一、二、第二ないし第一〇号証、第一一ないし第一三号証の各一、二、第一四号証、第一五、第一六号証の各一、二、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九、第二〇号証
2. 証人松下貞夫の証言
3. 甲第二、第五号証、第六、第九号証の各一、二、第一〇号証の成立は不知、その余の各甲号証の成立は認める。
理由
一、原告の主張1、2、3(一)、(二)の各事実、3(三)および(四)(1)のうち「買換資産」の取得の日を除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二、まず「買換資産」の取得の時期について検討する。
「買換資産」のうち、工場用建物は昭和四八年八月末、社宅用建物は同年九月末以後、電気設備は一〇月末頃三国鋼業が取得したものであることは、当事者間に争いがない。
そして、成立に争いのない乙第四号証、証人長岡三朗、道下哲朗、松下貞夫の各証言および弁論の全趣旨によれば、三国産業は三国鋼業から建築を請負つた事務所用建物のうち建物本体の建築を株式会社豊工務店に、これを事務所兼宿舎として使用するための床張り、間仕切り、風呂、便所の設置等の内装工事の施工を道工業株式会社にそれぞれ注文し、これに基づいて、株式会社豊工務店は昭和四八年三月二〇日頃小松ハウス製のプレハブ平家建建物を建築し、道工業株式会社は同年八月頃その内装工事を完了して、その頃右事務所用建物を三国産業に引渡し、その後三国産業はこれを三国鋼業に引渡したことが認められる。以上の事実および前記三国鋼業と三国産業との請負契約の約定をあわせ考えれば、三国鋼業が事務所用建物を取得したのは昭和四八年八月以後であるというべきである。
そうすると、三国鋼業が「買換資産」を取得したのはすべて指定期間を経過した後であることが明らかである。
三、原告は、三国鋼業が「買換資産」を指定期間内に取得しなかつたのは、その建物建築に必要なセメントが右期間の終末近くに至つて市場から忽然と消えるという異常事態によるやむを得ない事情によるのであるから、これを指定期間内に取得したものとして取扱うべきであると主張する。
しかし、法人がその資産を譲渡したことにより生ずる譲渡益につき法第六五条の五第二項所定の課税上の優遇措置を受けるのは、法人が指定期間、すなわち当該譲渡をした日を含む事業年度の翌事業年度開始の日から同日以後一年を経過する日までの期間、もし令第三九条の六第四項で定める工場等の敷地の用に供するための宅地の造成、工場等の建設、移転に要する期間が通常一年をこえると認められる事情があることにつき税務署長の承認を受けたときは、当該買換資産の取得をすることができるものとして同日以後二年以内において税務署長が認定した日までの期間内に、買換資産を取得した場合に限られることは、法第六五条の五第二項第一項の規定上明らかである。そして三国鋼業は昭和四四年六月土地建物を譲渡し、被告から指定期間を右法条の定める最大限の昭和四八年三月三一日までと認定されたのであり、右期間の終末近くになつて原告主張のごとき事情が生じたとしても、それ故に、指定期間内に取得しなかつた買換資産を法第六五条の五第二項の規定の適用上その期間内に取得したとして取扱うべきものとは到底解しがたい。
四、原告は、三国鋼業が取得した「買換資産」につき法第六五条の五第二項の規定の適用を認めないのは正義公平に反し、課税権の濫用であると主張する。
しかし成立に争いのない乙第一六号証の一、二、証人長岡三朗、松下貞夫の各証言および弁論の全趣旨によれば、三国鋼業は前記買換土地上に、おそくとも昭和四七年四月には、「買換資産」の建物および電気設備の築造工事をはじめることができたのであり、その工事期間は通常三、四か月をもつて足りると認められるから、たとえ原告主張のとおり昭和四八年一月になつてセメントが不足し建築工事ができなくなつたとしても、それ以前に右築造工事を完了することは十分可能であつたわけであり、他に、「買換資産」につき右規定を適用しないのが正義公平に反し、課税権の濫用であると解すべき事情は認められない。
以上のとおり、本件更正およびこれに附帯する過少申告加算税賦課決定には原告の指摘するような違法な点はない。
五、よつて原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 増井和男 裁判官 西尾進)